【雪燐】LOST WORLD2
- 2011/11/11 (Fri)
- 雪燐長編 |
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『LOST WORLD』の続きです。
今回はメフィストと雪男がお話しています。
雪燐全然からみあいません。すみません・・・・・・。
話が盛り上がるところまでなるべく早く行き着きたいんですが。
がんばります。
つづきから、どうぞー。
今回はメフィストと雪男がお話しています。
雪燐全然からみあいません。すみません・・・・・・。
話が盛り上がるところまでなるべく早く行き着きたいんですが。
がんばります。
つづきから、どうぞー。
後ろ手で扉を閉め、にぎやかな食堂を背に部屋へ戻ろうとした時、コートの内ポケットに入っていた携帯の着信音が鳴った。
「はい、奥村です」
「夜分遅くにすみませんねぇ、奥村先生。パーティはいかがでした?さぞかし盛り上がっていたのでしょう?」
携帯を取り出し耳に当てると、楽しげに雪男を冷やかすような男の声が聞えてくる。
雪男が部屋を出るのをまるで狙っていたかのようなタイミングに小さく舌打ちをして、雪男は携帯から止めなければ永遠にだらだら続きそうな雑談を打ち切るように相手の言葉を遮った。
「お話があるなら、そちらへ向かいます」
この場所で話していたらいつ兄がやってくるかわからない。この人物と話す内容はいつも兄に聞かせたくないようなものばかりだ。ただでさえ特例続きで不審に思っているだろう兄に余計な詮索はされたくはない。
雪男は携帯を切って、ポケットからいくつもの鍵がついた束を取り出した。その中のひとつを近場の部屋の扉に差し込む。
そして、その扉を開くと、その先にあったのは旧男子寮とは比べ物にならない豪奢な廊下だった。床は大理石で出来ていて、よく磨かれている。雪男はそのまま二つ隣の部屋の扉を丁寧にノックした。
「どうぞ」
中から声が聞え、雪男はそのまま入室する。すると、部屋の奥から、渋みのあるよい香りと共にどこか含みをもった男の声が届いた。
「奥村先生も一服どうです?」
部屋の奥には、浴衣のメフィスト・フェレスが抹茶の入った茶碗を持ち上げてにこりと笑っている。
雪男は広い室内を横切って、執務机の前に立ち、表情を変えずにメフィストを見下ろした。
「結構です」
「あ、そうですか」
残念そうな顔ひとつせず、メフィストは懐紙の上にのせられた桃色和菓子をぽいと口の中に放り込む。もぐもぐと口を動かしながら、急の呼び出しへの断りもなく、単刀直入に雪男へと尋ねた。
「それで、どうでしたか」
何が、とは雪男も聞かない。雪男が食堂を出たことを見計らったように電話をかけてきたのだ。きっと部屋の中で雪男がどんな話をしたのかも想像がついているのだろう。
メフィストの関心は基本的に燐のことだけだ。中二級という立場を押し付けられて燐がどう思ったのかについて興味があるのだ。
雪男の顔が歪む。燐の監視役であるつもりの雪男自身が、その実メフィストによって監視されているのだということなどとうの昔から知っていたが、やはり気分のいいものではない。それについて今更騒ぎ立てるほど愚かでもないと思うから、できるだけ冷静でいようとするのに、それもうまくいかない。そして、そんな雪男の思いも、所詮メフィストにとっては子供あがきにしか見えないのだろう。
雪男は諦めたようにため息をついて、メフィストに答えた。
「・・・・・・一応は、受け入れていました。前例がないということで、少し自信がなさそうでしたが」
「ほぅ。実力からいったら上級でも十分通用するというのに。殊勝なことだ」
メフィストは茶を啜り続ける。
「今や、彼の祓魔師としての能力に太刀打ちできるのは一部の上級祓魔師だけですよ。現聖騎士でさえ彼とうちあって三回に一度は膝を折る。しかも、それは彼が本気を出していない状態でだ。私ですら、無傷でいられるか・・・・・・。ああ、彼と戦う気はありませんよ。安心してください」
楽しげに告げるメフィストを雪男は睨みつける。メフィストとしては誉めているつもりなのだろうが、雪男にとってその事実は危険以外の何物でもない。燐の実力が増すほど、騎士團からも悪魔からも目をつけられるだけだ。
「――僕は、納得がいっていません」
低くつぶやいた雪男にメフィストはおやというような顔をする。そして、残りの和菓子をもうひとつ口の中に放り込みながら、続きを促した。
「貴方が兄を中二級に推した意味がわからない。こんな特例を無理やり押し通して何がしたいんです?ただ悪目立ちをして、ヴァチカンの印象を悪くするだけだ」
「ははぁ、なるほど。奥村先生はあれですね、貴方の兄をできるだけ隠しておきたいわけだ。大人しくさせて、本部の目に留まらないようにしておけば、これまでの騒動も見逃してもらえると、そうお思いで」
メフィストは上品に抹茶を一口のみ、ちらりと視線を送ると、口角を上げて笑った。
「甘い。実に甘いですねぇ。そんなもので彼らが魔神の仔を見逃すとでも?彼らはいつも探していますよ、彼の処刑理由をね。役に立たないなら立たないで、いつ処分されるかわからない」
雪男は燐が処刑されそうになった過去の出来事を思い返してぞっとした。よくも今まで無事に切り抜けられてきたものだ。だが、今まで無事だったからといってこれからも同じだという法はない。
「隠しておくくらいならば、役に立つのだという認識をさせた方が得策でしょう。これを、みてください」
メフィストが引出しから分厚い書類を取り出す。ばさりと執務机の上に広げられたそれを雪男は手に取った。
「これ・・・・・・は?」
英語で書かれた報告書の間に世界地図がはさまれている。雪男がそれを広げると、そこには世界各地におかれている正十字騎士團の支部のいくつかに赤いバツ印がつけられていた。
「ここ一ヶ月以内に悪魔の大規模な襲撃があった支部です。バツ印がついているところはほぼ壊滅状態の支部ですね」
「なんですって!?そんな話初耳ですよ」
「極秘事項ですから。先生もご内密に」
しぃっとメフィストは人差し指を唇に当てる。雪男は思わず大声を出した口を手で覆った。
「何者かが、意図的に騎士團に対してしかけてきているとしか思えない」
「あなたは何か知ってるんじゃないんですか」
胡散臭げに雪男がメフィストを見ると、メフィストは肩をすくめて首を振った。
「ずいぶんと買いかぶってくださる。まあ、いくつかの予測は立てていますが・・・・・・。本格的な話になったら貴方にもお話しましょう」
そういうと、メフィストは椅子から立ち上がって雪男の前まで来るとその耳元に囁いた。
「そういうわけで、貴方の兄の能力は大変期待されているのですよ。この危機的な状況にあってはね。上層部は貴方の兄の力を求めざるを得ない。そして、それを拒む権利は貴方にはない」
ぐっと雪男は押し黙り、うつむいた。長年正十字騎士團に所属してきた雪男は上層部の命がいかに絶対的であるかを知っている。一介の祓魔師がとやかく言える立場ではない。
「・・・・・・わかっています」
「まあ、そう悲観ばかりするものではありませんよ。位が上がればそれだけ権限も増える。貴方も今回上一級となったではありませんか。騎士団での発言権も増すでしょう。奥村君のために有利に進められることもあるかもしれない、とそう考えるんですよ」
メフィストは言い聞かせるように雪男の肩に手を置いた。
「上一級の奥村先生と共に任務をこなすためには下っ端の祓魔師では難しい。奥村君を中二級に推薦したのは、そういう理由もあってです。貴方は今まで通り、貴方の兄を傍で監視していればいい」
そういわれ、雪男は考えこむように黙り込んだ。
メフィストの言い分は一見否のうちどころがないようだったが、それでも雪男の不安を煽った。
何か悪いことが起こりそうな、そんな予感が雪男の胸をざわつかせていた。
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