LOST WORLD 1
- 2011/11/09 (Wed)
- 雪燐長編 |
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以前書いた『LOST』に到るまでの長編です。
書く気力が続けばいずれあそこまで行き着く予定。
『LOST』を読んでいなくてもOKです。
注意!
・とっても捏造話です。
・3年後の高校卒業時、燐が晴れて祓魔師になるところから話が始まります。
・2011年5月頃にプロットを練ったので原作、アニメ設定との齟齬が山のように出てきます。(その齟齬に私が耐えられなくなった時がこのシリーズの終わり時です)
よろしければ、つづきから、どぞ!
書く気力が続けばいずれあそこまで行き着く予定。
『LOST』を読んでいなくてもOKです。
注意!
・とっても捏造話です。
・3年後の高校卒業時、燐が晴れて祓魔師になるところから話が始まります。
・2011年5月頃にプロットを練ったので原作、アニメ設定との齟齬が山のように出てきます。(その齟齬に私が耐えられなくなった時がこのシリーズの終わり時です)
よろしければ、つづきから、どぞ!
深夜、耳を澄ます。微かに聞える寝息に安心して、ほっと目を閉じる。そんな日々の繰り返し。この永遠に続くかと思われた儀式も、今日で終わりだ。
穏やかな吐息に混ざる空気の甘やかさも、ふと呼吸の途切れた瞬間に凍る心臓も、今日からは何一つ気にすることはない。
光と闇が巣食うこの胸のうちを暴かれることなく旅立つことができるのは、唯一の僥倖か。
光は光であって欲しかった。そして、闇は闇に帰するべきである。
双子という宿命は、本来こうあるべきなのかもしれない。遠い昔、天上から堕ちたという双子の天使の片割れがそうすることを選んだのは、もしかしたら もう一人の天使を闇に堕としたくなかったからかもしれない。
ただ、ひとつの心残りは、最後に伝えそびれたメッセージ。
――泣かないで。こうなってしまったことを、悲しまないで。
きっと、あなたは泣かずにはいられないのだろうけれども。
――――LOST WORLD――――
桜のつぼみはまだ硬く、桃花がわずかに綻びはじめたその頃に、正十字学園高等学校の卒業式は行われる。
良家の子女が集まるこの学校の卒業式は盛大で、学園の敷地内は別れを名残惜しむ生徒やその保護者で賑わっていた。
だが、それも日暮れ近くまで。月が夜空に現れ夜道を照らす頃には、いつもどおりの静寂が敷地内に満ちてくる。
「結局、遅くなっちゃったな」
その月明かりの中、雪男は両手に大荷物を抱えながら旧男子寮へと向かっていた。鍵を使えばすぐなのだが、息を切らして坂を登っている。夜風にのった桃の香りに誘われてというのもあるが、もうひとつ、すぐには帰りたくない理由があるからだ。
「もう、はじまってるかな・・・・・・」
雪男が坂の上の寮を見上げると、普段は薄暗い男子寮に煌々と明かりがつけられている。建物内の騒ぎ声が今にも響いてきそうな明るさだった。
それをしばし眺めて、雪男は少し歩くスピードを速めた。
寮内では今燐主宰の卒業祝い兼祓魔師合格祝いのパーティが開かれているはずだ。
集められているのは、燐の祓魔塾の同期生たちである。この日のために燐は何週間も前から飾り付けや料理について頭を悩ませていた。
兄が楽しそうなのをみて、開催自体に文句をいうつもりはなかった雪男だが、燐に『お前も卒業するんだから参加するんだぞ』と言われれば、眉を顰めるしかない。
苦手というほどではないが、人の集まりを好まない雪男にとってはこの手の催し物はできるだけさけていたいものだった。
そんな雪男の気持ちを察してではないだろうが、昼過ぎに急遽悪魔祓いの任務が舞い込んだ。そのせいでパーティを遅刻せざるをえなくなった雪男を誰も責めることはできないだろう。何せ卒業式すら途中で退出することになったのだ。卒業生代表の祝辞を読まなければならなかったのに。
それはいいとしても、悪魔祓いが終了し、寮で塾生たちがパーティをしていると聞いた祓魔塾の教師に大量の荷物を持たされて、やることもなくなった雪男の帰る先は盛り上がりもピークを迎えているだろうそのパーティ会場しかない。
習い性になっている小さなため息をついて、雪男はしかたなく食堂へと向かった。
「よぉ!雪男!おつかれさん!」
食堂の扉を開けてまず雪男を出迎えたのは、エプロン姿で使い終わった皿やグラスをトレイに乗せている燐だ。
「なんか・・・・・・すごいことになってるね、兄さん」
予想通りというよりも予想以上の盛り上がり様で、部屋の奥のほうでは何かゲームでもしているのか塾生たちが集まって声を張り上げている。勝呂、志摩、三輪、しえみに出雲と入塾当初はばらばらだった生徒たちも三年も一緒にいればくされ縁とでもいわんばかりに仲良く笑い声を上げている。
「兄さんはあっち、入らなくていいの?」
「ん、これちょっと片付けたらな。おーい、みんな!雪男きたぜ!」
「ちょっと、いいよ、兄さん。盛り上がってるのに」
いっそうの事このまま何事もなかったようにこの場を立ち去りたかったというのが雪男の本音だったが、部屋の奥から奥村せんせーという黄色い声が一斉に上がったのを聞いて頭を抱えた。どうやらこのテンション、アルコールが入っていると思って間違いない。
「奥村先生、おつかれさまです。ささ、こちらへどうぞ」
志摩が気をきかせたつもりか、みんなが集まっている机の中央に椅子を寄せる。いよいよ去りがたくなった雪男は軽く顔を引きつらせながら、その椅子に座った。
「ええと・・・・・・みなさん、ご卒業おめでとうございます」
「って、奥村先生やって、一緒に卒業したんやないですか」
志摩が苦笑しながら突っ込みを入れる。
「あ、そうでした。どうも皆さんといると教師の気持ちになって・・・・・・」
「それも、今日までだよ、雪ちゃん!私たち明日から正式に祓魔師なんだから!」
しえみが胸をはっていう。雪男はそれを聞いて、頼まれていた用事を思い出した。
「ああ、そうでした。椿先生からのお使いを頼まれていて。これ、皆さんの制服です。明後日はこれを着て所定の場所へ集合してくださいとのことです」
「へえ、制服、こんな風に支給なんですねぇ」
もっとちゃんとした支給のされかたやと思った、と三輪が言うので、雪男はうなずく。
「今年の祓魔師合格者はみなさんだけなので。でも僕の時もこんなかんじでしたよ」
雪男は紙袋から取り出した制服を開いている机の上に並べる。するとわっと各自がそれぞれの名前の入った制服に飛びつき、祓魔師の象徴である黒いコートを試着している。
「おい、奥村!そんなんしとらんと、こっちこいや。お前のもあるで」
「おー!」
勝呂に呼ばれ、燐がエプロンで手を拭きながらパタパタとスリッパを鳴らしながらやってくる。勝呂から制服を受け取って、エプロン姿の上から羽織る。
「へぇ、なかなか似合うじゃない」
「えっ?まじで?」
めったに燐のことを誉めない出雲が感心したようにいう。燐はへへっと照れたように鼻の下を擦った。そして、そのままくるりと一回りしたところで、あれ?と声を上げる。
「これ、何?なんか印ついてる」
燐が指したのは襟元の内側の縫い取りだった。白い線が三本縫い取られている。
「あれ?奥村くんの襟元、ちょっと僕らと違いますね」
三輪が燐と自分の襟元を見比べる。すると隣から志摩が首を突っこんだ。
「あ、ほんまや。ここ、この内側のとこ、俺らは線が一本しかはいっとらんのに、奥村くんは三本や」
「ほんまか!?こら、ちょっと志摩どけや」
「坊、痛いですって」
志摩を払いのけるようにして退かせると、勝呂は燐の襟元をぐいっと引き寄せた。そして、確かにそこに白い線が三本引かれているのをみて、絶句する。
「これって・・・・・・中二級の印やないか」
「えっ?」
「でも・・・なんでお前が中二級の・・・・・・」
「それは、先日の会議で決定したことなんです」
塾生たちのやりとりを見守っていた雪男は眼鏡を上げながら、穏やかに説明した。こういう流れになるのはあらかじめ予想済みだ。
そして、塾生の中で一番反応しそうだと思っていた勝呂が思った通り、雪男に詰め寄ってくる。
「どういうことですか。いきなり中二級なんて・・・そんなん・・・・・・あるんですか?」
普通、祓魔師になれば誰しも下一級からのスタートだ。そこから、実力によってはハイスピードで上級に駆け上がるものもいるが、そうだとしても、初めから中級というものはありえない。
「前例はないですが、まあ、兄の場合はこれまでの前歴を評価してということになって」
雪男は有無を言わせない笑顔を浮かべる。勝呂は納得がいかないというように眉を顰めた。塾生の中では一番優秀で、こういうことには『鼻』が聞く。祓魔師としては優れた資質かもしれないが、今は正直わずらわしい。
「フェレス卿の推薦ですから」
その一言に勝呂も黙る。雪男と勝呂の間に走った緊張感に部屋全体が凍りつきそうになったとき、自信なさげに燐がぼそりとつぶやいた。
「え、俺が中二級って・・・・・・むりだろ」
明らかに腰が引けている。普段は粋がってみても、こういう不意打ちの評価に燐は弱い。それに燐にとってはみんなと一緒に祓魔師になれたということの意味が大きいのだろう。ひとりだけ、いきなり、それも特例でと聞けばしり込みをするのも無理はない。
だが、雪男としては、だからといって燐に中二級を辞退されても困るのだ。
「兄さん、あのね」
「燐!おめでとう!
雪男がフォローをいれようとすると、丁度いいタイミングで少し酔っ払った顔をしたしえみが燐の両手を握って満面の笑みを向けた。
「燐、大丈夫だよ。雪ちゃんだっていってたじゃない?燐の働きが評価されたんだよ。よかったねぇ」
しえみに祝福され、燐の表情も少し明るくなる。
「そ、そうかな」
「そうだよ!ね、神木さんもそう思うよね」
「えっ?ま、まぁね・・・これまで祓った悪魔の数考えればね・・・・・・でもやらかした失敗考慮したら差し引きゼロだと思うけど」
「ほら!神木さんもおめでとうっていってる!」
「今ので、どこがいってることになるのよ!」
「はははっ!」
「杜山さんと神木さんはあいかわらずやなあ」
しえみと出雲のやり取りに周囲から笑い声が漏れる。燐もようやくいつもの表情になって笑い声を上げた。
雪男はほっとしてその様子を見守った。心の中でしえみに感謝する。同期生に認められれば燐もやる気になるだろう。
「よっしゃ、じゃあ、奥村の中二級昇格祝いも兼ねて、続きやるかぁ!」
勝呂が景気よくチューハイの缶を掲げる。まってましたと志摩がみんなにチューハイを配り始め、改めて乾杯の音頭を取った。再び宴会の続きが始まる。
用事は済んだとばかりに、雪男はそっと部屋をでようと扉のノブに手をかけた。すると,背中をくいっとひっぱる気配があって、後ろを振り向く。
「なあ、本当に俺、中二級でいいの?」
先ほどまでは笑顔だったはずの燐が、やはり少し不安げな顔で尋ねてくる。雪男は出来るだけ燐が安心できるような微笑みを作ってから、ゆっくりとうなずいた。
「うん。上層部も期待しているからがんばって。中二級といっても、名前だけ、大したことないよ。僕も今回上一級に昇格したことだし」
「ええ!上一級?いつの間に!」
燐の驚いた声が食堂に響き、皆の視線が一斉に雪男に集まる。雪男はにこりとして手を振った。
「というわけで、皆さんの上司ということになります。よろしくお願いしますね」
そういって部屋を出れば、扉の向こうが大騒ぎになっているのが聞えた。雪男はこれ以上詮索されるのを避けるために、足早に食堂を後にした。
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