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sophora

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LOSTⅡ【雪男悪魔落ちネタ】

Ⅰのつづきです。
ねつ造にしてもほどがある、そういう話です。


***



「――っ」
 一発目の弾は燐のすぐ隣をすり抜けた。雪男が狙いをはずしたというより、燐の身体が無意識に反応したのだろう。続けて二発目、三発目と繰り出したものは、倶利加羅で弾かれる。燐自身はこの闘いを認めたくないと拒否しているのに身体が勝手に動いているといった感じだ。それが雪男の目にもよくわかった。
 そして、とうとう目の前の危機に燐の身体が自動的に戦闘モードへと突入する。
「きたか・・・・・・」
 燐の炎がぼっと燃え上がり全身を包む。それと同時に瞳に理性をなくした獣の光が宿る。
 悪魔化した燐が真の力を発揮するのは、理性を失っているときだ。
 はじめ教師たちはそれを燐自身によってコントロールさせようと躍起になったが、結局彼らは意図的に燐の悪魔としての本能を抑えることをやめた。
 燐に理性を保たせるということは、つまり、燐の中に人間の部分を残しておくということだ。本来、悪魔そのものであることが一番の強さにつながるというのに人間の部分がそれを邪魔しては本末転倒だった。その矛盾に祓魔師たちは気づいたのだろう。
 獣は獣らしく。悪魔は悪魔らしく。本能に従って闘わせる。
 それは彼らにとっても賭けだったのだろうが、その賭けの最大の推奨者があのメフィスト・フェレスなのだ、誰にも止められるわけがなかった。
「・・・・・・・・・」
 一匹の獣がじっとこちらをみつめている。獣が標的を狙い定め、いつ飛びついてやろうかと舌なめずりしている。
 もう燐には目前の人物が自分の弟だと判断できていないだろう。ただ、自分を害する敵であると認識しているだけだ。
それに気づいた雪男の額にびっしりと汗が浮かんでくる。本気で悪魔化した兄の強さがどのようなものであるのかは傍でその成長を見守ってきた雪男が一番よくわかっている。
 数年前には野生の獣でしかなかった悪魔は、多くの一流祓魔師の手によって今では誰の手にもおえない同属殺しの獣へと変化を遂げたのだ。
 じっとこちらの様子をうかがっていた燐が雪男の戸惑いを見抜いて仕掛けてくる。雪男ははっとして、距離を縮めさせないように立て続けに銃弾を放ったが、あたる気配がない。根本的に兄の速さに追いつけていないのだ。
「そう、こなくっちゃね」
 雪男は、ははっと乾いた笑い声を上げて、眼鏡を押し上げ、腰に下げたいくつもの小瓶を手にした。この日のために調合した特別な薬品だ。悪魔薬学の天才と言われ、どんな悪魔にでも効く薬を開発したのは今日この日のため。
「――っ、そこだっ!」
 まさしく獣のように敏捷に動き回る燐に雪男は瓶を投げつける。ぎゃっと奇声が聞え、燐が怯んだ隙に体勢を立て直す。
 しゅーっと煙が立ち昇る中、倶利加羅を片手にぬらりと立ち上がるその姿を見て、恐怖を覚えずにおられるものはいまい。
「まあ、このぐらいじゃ兄さんには効かないってはじめからわかってたよ」
 雪男は唇を強引に横に引いて自嘲する。だが、漏れる声は震えている。
 このままいけば消耗戦だ。長引けば自分が不利になることを雪男はよくわかっている。今が仕掛け時だった。
 手にかいた汗で銃がすべった。雪男はコートで汗をぬぐい、最終手段に用意しておいた、複数の小瓶を自棄っぱちのように燐へと放り、そのひとつに狙いを定めて引き金を弾いた。
「さよなら、兄さん」
 直後、鼓膜が破れるかと思うほどの轟音が鳴り響く。そして頑強に作られた壁が崩れるほどの爆発。
 雪男はその爆風に跳ね飛ばされて、広間の隅の壁へと叩きつけられた。
 一瞬気が遠くなるが、すぐに正気に戻った。悪魔と化したこの身体は人間の時とは強度が違う。ちょっとやそっとの怪我はすぐに回復してしまう。
 雪男は身を起こして、広間の中を見渡す。広間の中心はまだもうもうと白い煙が上がっていた。水蒸気だ。爆発を起こした後、その熱で高濃度の聖水を蒸発させそこに高度な結界を張ったのだ。
 兄の弱点はその身体にある。物質界に長年いた兄の身体は人間に比べたら恐ろしいほど頑強だが、他の悪魔たちと比べれば脆い。物理的な衝撃によってその肉体を弱らせ、最も高濃度の聖水で彼の悪魔である部分を消滅させる。それが燐を倒すための雪男の考えた唯一、最良の作戦であった。
「兄さん・・・・・・」
 あの白んだ結界の向こう、兄はどうなっているのだろう。もう、その存在はどろどろに溶けて消え去ってしまったのだろうか。あの、青い炎と共に。
 雪男はぼんやりとその景色を眺めた。一気に襲いくる虚脱感をなんとかなだめ、ふらつく足取りで結界に近づいた。
 近づくごとにじゅっと聖水の水蒸気が雪男の肌を焼く。悪魔となった今では雪男にとってもそれは劇薬だ。火傷をした直後の痛みがいたるところに現れたが、雪男は気にせずに結界に足を踏み入れた。そのとき。
「―――?!」
 衝撃と、何か腹部に熱いものを感じた。驚きで頭が真っ白になり、雪男はしばし正面を向いていたが、じりじりと腹の熱が全身に広まっていくのに気づいて、ようやく視線をおろした。
 そこには、青い炎を宿した美しい宝刀が突き刺さっていた。
「あっ――?」
 状況がよくわからず、雪男はまじまじとその刀を見た。ぐいぐいと力がこめられてそれは深々と雪男の脇腹に埋まっていく。
 雪男はうめき声もあげず、その刀の先に視線をすべらせていく。美しい刀身、その先の柄、それを握る白い手。
 ゆっくり顔を上げる。そこにあるのは傷ひとつ負わず倶利加羅をしっかりと握りしめ佇む、未だ獣の瞳を宿した雪男の兄の姿だった。
 がくりと足の力が抜け膝をついた。兄を見上げる。兄の炎は生き生きと青く燃え上がっている。あれだけの攻撃も兄にはまったく効かなかったのだ。
 雪男は自分の置かれた状況も忘れて口元に小さな笑みを浮かべた。兄の無事な姿を見てなぜかほっとしていた。
 自分が先ほどまで殺そうとしていた相手が無事なことを喜ぶ。その矛盾に雪男は腹を抱えて笑い出したくなったが、身じろぎして得られたのは腹部の激痛だけだった。
「・・・・・・い、さ・・・ん」
 口から漏れたのは声にすらならない、擦れた吐息。うまくしゃべれずに、ひとつ咳き込んだら一緒に血が吐き出された。腹からも止めどもなく赤い血が流れている。触れるとぬるりとその赤が手を汚した。悪魔となったのに、この身体に流れるのがまだ赤い血だということがひどくおかしかった。いっそうのこと、この青い炎のようにこの血も青くなってしまえばよかったのに。
「兄・・・・・・さん」
 今度は先ほどに比べまともな声が出た。耳を近づけなければ聞えないような小さな声だったが、そんな声でも兄には届いたのだろうか、その獣の目の中にふっと理性の光が宿った。そしてそこに雪男が好きなあのきらきらとした兄の瞳の輝きが戻ってくる。
 ああ、だめだ、と雪男はどくどくと血を吐き出す腹を抱えて思った。
 ――こんな時に正気に戻っちゃだめだよ、兄さん。
 正気に返った兄はどう思うだろう。たったひとり残された家族、その命がまさに自分の手によって失われていくことを。
 意識が遠のく。雪男はそれを必死で留めようとする。
 だめだ、ともう一度雪男は心の中で叫んだ。
 ここで意識を失って、そのままこの命を終らせてしまってはだめだ。自分はまだ言わなければいけないことがある。兄に。最愛の兄に。奥村雪男という男の人生すべてを支配していた、この人に。言わなければいけないことが――。
「・・・・・・・・・」
 一瞬の、もしくは永遠とも思われる静寂が過ぎる。
 雪男の、最期の最期まで見失うものかといわんばかりに燐をみつめる瞳からふっと光が失われた。
「ゆ、きお?」
 そして、悪魔から人へ、本能から理性の世界へ戻ってきた燐の大きな瞳が、目前に崩れ落ちる雪男の姿を捕らえた。



***

まだつづくのか・・・?!

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プロフィール

HN:
如月 ちょこ
性別:
女性
自己紹介:
■ 青の祓魔師二次創作
 テキストサイト。腐向け。
■ 雪燐中心です。
   藤メフィもあります。
■ 書店委託開始しました。
   詳細はofflineで。

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