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sophora

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【雪燐】君の隣でそっと1

10年後パラレル長編。雪男がお医者さん、燐は祓魔師で一緒に育っていなかったという設定。出会った二人が恋に落ちていくところが書ければいいなぁと思っています。

つづきからどうぞー。


「次の方、どうぞ」
 白いシーツの掛かった診察ベッドと無機質な事務机が置かれた診察室で前の患者の情報をパソコンに打ち終わった雪男が次の患者を呼んだ。
 診察室の引き戸を患者が開けて入ってくる。看護婦が持ってきたカルテに目を通していた雪男は目の端にちらりと横切った黒い影にふっと視線を移した。
「どもっ」
 患者が雪男の視線を受けてぺこりと頭を下げる。雪男はその患者をしばし、呆気にとられてみつめていた。
 背の高い男だった。雪男ほどではないが、細身の身体が余計にスラリとした長身に彼を見せるのだろう。長い黒コートもそれに一役買っていた。長身なことだけではなく、彼は人目を引いた。整った容姿、印象的な青い瞳、少し伸びた黒髪。俳優かモデルか、芸能人など間近で見たこともないが、そういう部類かと思わせるような容姿。
「あのう、座っていいかな」
 雪男がまじまじと患者をみていると、少し照れたように男は笑って雪男の前の丸い椅子を指した。
「あ、ああ。すみません。どうぞ」
 雪男は我に返って男に椅子を勧める。そしてカルテに目をやる振りをしながら、わずかに脈の上がった自分の身体を意識しながら、気持ちを落ち着けるために初診の患者にする質問を口にした。
「初めての方ですね?」
「ええ」
「ええっと、お名前は・・・・・・奥村・・・燐?」
 驚いたように雪男は燐と呼ばれた男を見る。燐はにこにこしながら雪男をみつめ返してくる。
「はい、何か?」
「い、いえ。私も奥村というので・・・・・・」
「へぇ、先生も奥村なんだ。偶然だな」
「それに・・・・・・僕と誕生日も一緒だ・・・・・・」
「それも、すっごい偶然」
 燐は、ますます嬉しそうに笑顔をみせる。雪男はこんな偶然あるものなのかなと、この二十五年の人生の中で片手に数えられるほどの驚きに包まれながら、燐を頭の上から足の先まで眺めた。
 人好きしそうな笑顔、それよりもともかく美青年だ。微笑みかけられると、男のはずなのにどきどきしてしまう。雪男がこの正十字総合病院に勤めだしてから何年もたつわけではないが、こういった患者をみるのは初めてだった。
「先生、すっごい優しいんだって?さっき、待合室でばあちゃんたちが噂してた。カッコイイし、丁寧だし、安心して診てもらえばいいよって」
「いえ、そんなことは・・・・・・」
 手放しの賛辞を貰って雪男は変に恐縮する。おかしいな、いつもならこんなお世辞いわれても平気なのにと首を傾げながら、気持ちを切り替えるように燐に尋ねる。
「それで、奥村さん。今日はどうなさったんですか?」
「えっ?あ、ああ。ちょっと、風邪ぎみで・・・・・・」
「ふむ、風邪ぎみ・・・っと」
 燐から症状を聞いて、やっといつものペースが戻ってきたのか、雪男はパソコンに情報を書き込みながら、さらに質問を続けた。
「いつごろからですか?他に症状は?」
「んー、と、おとつい、いや、昨日の晩、から?かな。喉がいがいがするっていうか・・・・・・」
「そうですか。じゃあ、少し見せてくださいね」
 そういって、雪男はステンレス製の舌圧子を手にとり、燐の顎を触る。
「え、え、何すんの?」
「喉を診せてもらうんですが」
「あ、ああ。喉ね・・・・・・」
 燐はあーんといいながら大きく口を開けた。そこまで開けなくてもいいのだけど、と雪男は苦笑しながら燐の喉の様子を診る。
「ううーん、あんまり赤くはなってないですね。心音も聴かせてもらえますか?」
「え?」
「前を開けて」
 ジェスチャーをしてみせると、燐はわずかに躊躇してみせて、それから恥ずかしそうにシャツを上げてみせた。
 こんなこと医者にくれば当然のことなのに、慣れてないのかなとこちらも少し頬を赤らめながら聴診器で燐の鼓動を聴く。
 どくん、どくんと規則的などこか安心感を与える音だった。
 雪男はなぜかずっとそれを聴いていたい気分になったが、はっとして燐のシャツを下ろす。
「ええと、特に問題はないようですね。あとは、血液検査をしますか」
「え、血液検査!?それは、だめ!絶対にだめ!」
 燐の激しい拒絶に雪男は驚く。宗教上のタブーでもあるのだろうか。まあ、そういう人もいないわけではないので、雪男はうなずく。
「わかりました。では、喉の痛み止めと、一応抗生物質を出しておきましょうか」
 カタカタとキーボードを叩いて目的の薬を処方すると、雪男は燐を振り返った。
「え、これだけ?」
 燐は物足りなさそうに雪男を見てくる。雪男は思わず笑い声を漏らした。
「すみません、以上です」
 診察室の外では何人もの患者が待っているのだ。一人の、それも風邪の初期症状だけを訴える患者に何十分も費やしてはいられない。
「そっかー」
 残念そうにつぶやいて、燐は立ち上がった。だが、燐の背中を見て、本当は残念に感じているのは自分の方なのだと雪男は気づき、無意識に声をかけていた。
「もし、それで症状が落ち着かなければ、また来てください」
 雪男の呼びかけに燐がくるりと振り返る。雪男を見下ろし、ぱっと表情を明るくすると、子供のようにうなずいた。
「うん」
 扉が閉められるまで見送って、雪男は額に手をやった。どうも、熱が上がっているのは自分の方だと思いながら。







「今日はね、すごい偶然があったんだ、神父さん」
 勤め先である正十字総合病院から一人住まいのマンションへ帰る途中、実家である南十字男子修道院へ寄った雪男は、養父の藤本獅郎へ楽しそうに報告した。
「へぇ、すごい偶然、ねぇ」
 獅郎はだらしなく食卓テーブルに肘をつきながら息子の話に相槌をうつ。夕食後の一杯なのかウィスキーが入ったグラスを適当に振っているところが、片手間に聞くつもりなのがみえみえである。
 だが、今日の驚きをどうしても人に告げたかった雪男はどうでもよさそうな獅郎に興奮した面持ちで言った。
「今日外来にきた新患さん、僕と同じ誕生日だったんだ」
「へえ」
 獅郎はグラスをくいっと傾ける。どうも興味を引けたようには思えない。まあ、確かにそれだけでは驚くほどではないかもしれない。
「その上、その患者さん、奥村っていう名前で・・・・・・」
「ぶふぉっ」
「ちょ、神父さん、大丈夫?」
 突然、獅郎が噴出すので、雪男は驚いて近くにあったタオルを獅郎に渡す。獅郎はそれで顔を拭きながら、雪男に尋ね返した。
「その、誕生日も苗字も同じ患者・・・・・・名前なんていうんだ・・・?」
「ん?奥村燐っていってたかな」
「・・・・・・・・・あいつ」
「ん?どうかした?」
「いや、なんでもねー。そりゃ、確かにすげー偶然だな」
「でしょ?それにね、すごくかっこいい人だった。どっかの俳優さんみたい。そういう仕事関係の人だったのかもね。聞いておけばよかったかな」
 自分はミーハーな方ではないが、何かの話のタネにはなったかもしれないと、雪男は少し後悔する。それに、それだけではなく個人的な興味であの奥村燐と名乗った青年がどんな人物か知りたかったなと思う。
 雪男がしばし、昼間のことを思い出しながらぼーっとしていると、獅郎がグラスをテーブルに置いて雪男をじっとみつめてくる。それに気づいて、なに?と問い返すと獅郎はうーんとうなってから、頭をがしがしとかいた。
「あー、お前な、その奥村燐ってやつをみてどう思った?」
「だから、かっこよかったって」
「いや、そうじゃなく、もっと違った・・・・・・あー、まあ、いいや」
「なに?へんなの」
 言い渋ったまま再びグラスを傾けはじめてしまった養父に雪男は首を傾げたが、こういう場合何を言ったって欲しい答えをくれない人だと知っているから、雪男は獅郎を放っておいて、自分も手にした茶碗から茶を飲み下した。
 不思議な人だった、と何度思い返しても思う。
 ただの綺麗な人だったら、そういうことに疎い自分のことだ、印象に残ってもここまで思い返しはしないだろう。
 会ったのはたったの十分かそこら。けれど、今日一日ずっと彼のことが頭から離れない。
 笑顔が綺麗だったな、と指をひとつ折り、あと青い目も綺麗だったと指をふたつ折った。そうやって何度も繰り返して彼の思い出を反芻していると、まるで一目ぼれをした青少年のような気持ちになってくる。
 いい大人になって、何してるんだかと自分に突っ込みを入れて、雪男は席を立った。
「神父さん、僕、もうそろそろ帰るね」
「おう、気をつけろよー」
 もう、酔っ払っているのか、手をひらひら振る養父に苦笑して、雪男は帰る準備をする。
 修道院を出て、月が明るい夜空を見上げながら雪男は思った。
 もう一度、会いたいな。
 もう一度、あの笑顔が見たい、と昼間の彼の笑顔を頭に思い浮かべながら目を閉じた。








「……というわけで、次の任務は……ちょっと、聞いていますか?奥村君」
 派手な色合いの執務室の真ん中で、燐は高そうなソファに身をあずけながら手にした袋を表にしたり裏返したり、にやにやし通しだった。
「いいかげんにしなさい!」
 怒鳴り声と共にぼふんと音を立てて頭から大量のぬいぐるみが降ってくる。大して痛くもないが、思い出に浸る楽しい時間を邪魔されて、燐は不機嫌そうに声の主を睨みつけた。
「うっせーな、メフィスト!邪魔すんな!」
「邪魔するなとは、よく言いましたね……。今は何する時間かわかってますか?」
「あ?お前の趣味のわりぃ部屋で暇潰す時間だろ?」
「違います!日本支部長である私から任務を拝命する時間ですよ!」
 執務机の向こうからメフィストが燐に負けない強さで睨み返してくる。燐はちらりとそちらを見たが、すぐに興味をなくして手にしていた袋に視線を戻した。
「貴方は……まったく」
 メフィストが深いため息をつきながら、燐の座っているソファの方へとやってくる。上から見下ろされて、仕方なく見上げるとまるで駄々っ子を見るような視線を向けられた。
「これが四大騎士なんて、未だに私は信じられませんよ。四大騎士と言えば、聖騎士に次ぐ名誉ある役職。ヴァチカンはどうしてこんな我儘っ子を任命したんでしょうかね」
「知らねーよ、俺が欲しいっていって与えられたもんじゃねーし」
 燐はどうでもいい、といったように返す。本来なら、不遜と取られても仕方がない態度だったが、メフィストはそうは取らなかったようだ。苦笑してうなずく。
「知ってますよ。貴方が欲しいものはもっと別のものですよね」
 メフィストはわずかに目を細めて燐を見る。多分そこに含まれるのは、燐の生まれと育ちと四大騎士に任命されるまでに至った経緯を知った上での慈愛みたいなものだったのだろうが、燐にとってみれば、何を知ってるのかといいたい気分だった。
「まあ、それは置いておいて。午後の任務ですが……」
「ああ?午後?それ、無理だわ」
 メフィストが気を取り直して、先程の案件を持ち出そうとしたところで、燐はあっさりとそれを拒否した。
「どういうことですか」
 むっとしたようにメフィストが尋ねる。燐は手にしていた袋をひらひら振って、にやりとメフィストに笑って返した。
「俺、午後びょーいんいかなきゃなんねーもん」
「病院……?」
 メフィストは目の前に差し出された袋をまじまじと見る。確かにそこには正十字総合病院と書かれている。
「なんですか、これ。薬袋?中は……のど飴と痛み止めと抗生物質。風邪薬ですか」
「うん。風邪ひいたの、俺」
「うそおっしゃい。貴方が風邪のウィルス程度でどうこうなるような……ん?」
 メフィストは薬袋の中に入っていた予約カードをみつけ、そこに書かれている主治医の名前を見て目を見張った。
「奥村君……」
「うん、だから、俺、風邪ひいたんだって」
 燐はにこりと笑う。風邪を引いたとはとても思えないぐらい、嬉しそうに笑う。
 メフィストはしばらく黙ったまま燐を眺め、目を閉じると仕方ないというように肩をすくめてうなずいた。
「わかりました。風邪、ですね。じゃあ、病院の後任務に行ってください」
「えー、俺風邪っていったじゃん」
「それとこれとは別の話ですよ。きちんと任務をこなさなきゃ、貴方が日本にいる意味なんてないんですからね」
「ひでぇ」
 といいつつも、燐は病院にいく許可を貰って、ご機嫌になった。
「じゃあ、俺、行ってくるわ」
「任務、忘れずに行ってくださいね」
「んー、気分次第」
「奥村君!」
 はははっと笑いながら、燐は理事長室を後にする。
 正十字学園内を歩きながら、燐はもう一度薬袋に入った予約カードを見た。
「奥村…雪男、先生か」
 ふふっと自然と笑みが漏れてくる。その名前を口にするだけで、ふわふわといい気持ちになって、心臓がどきどきする。
「奥村先生……雪男先生……」
 どーやって呼ぼう、と午後の診察のことに思いを馳せて燐はまた口元をほころばせた。
 会いたい、会いたい、会いたい。こんなに会いたいという気持ちがいっぱいになったら、胸が張り裂けてしまうんじゃないかと心配になる。
 前に出された薬がなくなるのに一週間、本当は三日目に我慢が出来なくなって病院に会いに行こうかと思った。それを我慢してあと四日。暇つぶしに任務に精を出してみたり、メフィストを茶化してみたりしたが、結局頭にあるのは雪男のことだった。
「優しそうだったな……」
 いかにもお医者さんといったかんじだった。それが燐にはすごく嬉しかった。声も甘かった。名前を呼ばれた時は溶けてしまうかと思った。
「早く、会いたい」
 そして、もう一度名前を呼んで欲しい。
 燐は願いをこめるように、予約カードに書かれた奥村雪男の名前をなぞるとそこに音を立ててくちづけた。


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プロフィール

HN:
如月 ちょこ
性別:
女性
自己紹介:
■ 青の祓魔師二次創作
 テキストサイト。腐向け。
■ 雪燐中心です。
   藤メフィもあります。
■ 書店委託開始しました。
   詳細はofflineで。

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