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sophora

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【雪燐】君の隣でそっと2

雪燐パロの続きです。
獅郎とかメフィストが意味ありげだったり、燐が積極的だったりします。
しばらくはそんな感じで進みそう。
 昼食後、午後の外来診察のため診察室に向かう途中、雪男は待合室がざわついているのに気づき、足を止めた。
 午後の待合室は午前中ほど混み合わない。めずらしいこともあるものだと、少し興味を惹かれてそちらをみると、そこには周囲の注目を一身に集めている若い青年が座っている。
 どきり、として雪男はその場に立ちすくんだ。
 まさか、と思ってまじまじとその青年を観察する。間違いなく、彼、だ。雪男がこの一週間会いたいと望んでいた人物。
 青年は周囲の人々からひそひとと噂をされていることなどまったく気づいていないようだ。ビニール張りのソファにちょっとだらしなく身をもたれかけさせ、雑誌を読んでいる。
 そんな気の抜けた姿でもどうにも様になってしまうのだから、容姿のいい人は得だなと雪男は考え、いや、そうじゃなくてと自分につっこみをいれながら少し上気した頬を撫ぜながら診察室へと向かう。
 前回の受診から一週間。もしかしてもう二度と会えないかもしれないと思っていたところに、思いもよらぬ再会のチャンスがやってきた。
 早く、彼の順番にならないかなと思いながら診察を続けていると、数人目で奥村燐の名前が呼ばれた。
「こんにちは」
 そういって入ってきた燐はあいかわらず満面の笑顔をたたえている。何らかの症状を抱えて受診する病人にしてはその笑顔は朗らかすぎるぐらいだ。
「こんにちは。風邪はまだよくならないですか?」
 丸椅子に腰掛ける燐にそう聞くと、燐はぱぁっと表情を明るくする。
「何、先生。俺のこと覚えててくれたの?」
「それは……まぁ、たった一週間前のことですから」
 覚えていたどころか、毎日あなたのことを考えていたのですとはとても言えず、雪男は口ごもりながら答える。
「あ、ああ、そうだよな」
 燐は過剰に反応したことが恥ずかしかったのか、こめかみをかく。
 雪男はそんな燐に、本当はずっと待っていたんですといいたかったが、会ったばかりの、それも病気をみてもらうために来た医者にそんなことを言われたら困惑するだろうとぐっと言葉を飲み込んだ。
「それで……体調の方はどうですか?またいらっしゃったということは、薬、効きませんでしたか」
「あ、ああ。ううん、風邪の方は大丈夫。平気」
「じゃあ、今日いらっしゃったのは……?」
「え、ええっと……」
 燐はあたふたしたように手を振る。なんだろう、言えないような症状なのだろうかと雪男が不思議に思っていると、燐は何かを思いついたようにぽんと手を叩いた。
「あ、そうそう。最近、眠れないんだよね」
「眠れない……不眠ですか。他には?」
「あー、あとは……そう、胸がどきどきして、時々きゅーって苦しくなる」
「動悸、呼吸苦もあり、か。どんな時になりますか?」
 雪男が症状を電子カルテに打ち込みながら尋ねると、燐は一瞬黙り、じっと雪男を見て答えた。
「ある人のこと考えてるとそうなるんだよ。なぁ、先生、これってなんの病気?」
「それは……」
 燐が青い瞳を雪男に向けてくる。深い海の底のような色だ、と雪男はしばしその色に囚われ、はっとして口元を覆いながら言った。
「それは、一般的には恋わずらいというんじゃないかと……」
「恋わずらい?」
 ぽかん、としたように燐は口を開ける。雪男は視線をそらしながら続ける。
「想い人のことを考えると、胸が苦しくなって夜も眠れないって、恋をしている人がよく言いますよね」
「ふーん、恋わずらい、ね。へー、そうか」
 燐は何を考えているのか、感心したようにへーとかほーとか言っている。
 雪男はそんな燐を見ながら、そうか、この人にはそういう相手がいるのかと思って、自分がひどくがっかりしていることに気づいた。
 まあ、これだけ素敵な人なのだから当然だろうなとも思う。恋人のひとりやふたりいたって不思議じゃない。
 雪男はずっしりと重くなった胸のあたりをなだめながら、強引に笑顔を作った。
「そういうことで悩んでいるなら、相談する科を変えた方がいいかもしれませんね。紹介状を書きましょうか?」
「えっ!先生が診てくれないの!?」
「ええ、僕は内科医なので。そういうのは専門家の方がいいと思いますが」
「やだよ!俺、先生がいい!」
 燐は思いもよらぬことを言われたというように、必死になって雪男にくいつく。
 雪男はびっくりして目を見開く。
「いや、でも、僕は大したことできませんよ」
「いいんだよ、俺がそうしたいって思うんだもん。……だめ?雪男先生」
 燐が下から雪男の目をのぞき込んでくる。まるでおねだりをする子犬のような目だ。
 雪男はうっと言葉につまって、視線をそらす。どうも燐の瞳には人を惹きつける力があるようだ。
「だめって言われてもですね……いや、それより、雪男先生って」
 病院では下の名前で呼ばれることなどめったにない。その上、自分の気になっている相手に名前を呼ばれ、不意打ちにどきどきしてしまって、雪男は困ったように眉を寄せた。
 だが、燐はそれに気づいていないのか、ああ、それはねーと答える。
「俺、海外育ちだから。ファーストネームで呼びなれてんの」
「え、外国の方なんですか」
 突然、相手から意外な情報を入手して、雪男は目を見開いた。
 確かに、外見は日本人離れしている。だが、流暢な日本語を操るので全然気付かなかった。
「日本語お上手ですね」
「ああ、向こうでも結構日本語よく使ってたし。俺の師匠っていうか世話係っていうかそいつも日本人だったしな」
「へえ、そうだったんですか。日本にはいつごろいらっしゃったんですか?」
「ん?先月末」
「えっ?」
 雪男はますます目を丸くする。では、来日してすぐに彼は来院し、雪男と出会ったことになる。
 すごい偶然だ、と雪男は深い感慨を覚えた。同じ誕生日、同じ苗字、そして雪男の気持ちをここまで捕らえる人物が、たまたま体調を崩して自分の診察を受ける。偶然というにはあまりにも出来すぎた内容だ。
「運命かも」
 ぼそりとつぶやかれた言葉に雪男は息を呑んで燐を見る。燐はまるで何かなつかしいものを見るような目で雪男をみつめてくる。
「運命?」
「うん。来たばっかの日本で、こんなに優しい先生に出会えたのも、運命かなって。だから、俺は雪男先生がいい」
 雪男は呆然と笑顔でそういう燐を眺めた。自分との出会いを運命なんて言葉で表現する人物を今までの人生でお目にかかったことなどない。
「なあ、またなんか薬出して。そしたら、俺、それ素直に飲むよ?」
 むしろ自分の方が何かの薬を盛られたような気分になって、雪男は無言でうなずいた。
 その薬の名前はたぶん惚れ薬というのだろうと雪男は眩暈を覚えながら思った。


5



 夕方、病院での仕事が終わってロッカーで着替えをしていると、携帯のバイブが鳴った。
 雪男は慌ててポケットから携帯を取り出し、通話ボタンを押す。
「はい、奥村です」
『あ、奥村先生。すみませんが、今から支部まで出てこられそうですか?ちょっと、医工騎士が足りなくて……』
 携帯から流れてきた声には聞き覚えがあった。もう一つの仕事の同僚だ。
「ああ、いいですよ。今からちょうど帰ろうとしていたところだったので」
『助かります。では、また後で』
 雪男は携帯を切ると急いでコートを羽織り、病院を出る。
 病院から正十字騎士團の日本支部までは車で十分ほどだ。帰宅ラッシュで道が混んでいても二十分はかからない。雪男が二足のわらじを履くにはとても便利な立地条件だ。
 というよりも、雪男が医者になるにあたって、正十字騎士團側が出した条件が勤務先をこの正十字総合病院にすることであった。
 騎士團の息のかかったこの病院であれば、騎士團の任務を優先することができる。優秀な祓魔師を手放す気はさらさらない騎士團と、どうしても医者になりたかった雪男の最後の妥協案がこれであった。
 腕時計で時間を確認し、車に飛び乗る。必要な薬品はトランクの中。今日は支部の方へと呼び出されているから、薬品が足りなくなるということはないだろう。
 こうやって週に何回かは呼び出しを受ける。直接現場に足を運ぶこともある。それでも数年前、祓魔師として最前線で働いていた時に比べればずいぶんと回数は減っている。
 それは多分騎士團でも聖騎士という特別な地位にいる養父が、息子の希望を優先するようにと上層部へ掛け合ってくれているからなのだろうと思う。
「すみません、おそくなって」
 思ったよりも混んでいて時間がかかってしまった。そのため、支部の医務室に駆け込んだ時には雪男を必要としている祓魔師はほとんど居なかった。
「あ、奥村先生、すみません。せっかく来ていただいたのに。現場から何人か医工騎士が戻ってきてくれたんで、なんとか急場はしのげました」
 電話をくれた医工騎士が頭を下げる。雪男は笑顔でいいえと答える。
「おそくなった僕が悪いんですから。人手が足りていたようなら、よかったです」
 雪男は手にしていた鞄を床に置いて、ほっと息をついた。
「それにしても、結構大掛かりな任務だったようですね」
 雪男は医務室の中をみまわして、治療が終わった後の祓魔師たちを眺めた。重傷者はいないようだが、包帯を巻かれた祓魔師たちが何人もいる。
「ええ、でも、思ったよりもずっと楽だったようですよ。実は最近最強の助っ人が現れましてね」
「最強の助っ人?」
「ええ、なんと、先月ヴァチカン本部から四大騎士がいらっしゃって」
「え、そうなんですか」
 初耳だった。父の獅郎からは特にそんな話は聞いていない。確かに今は前線を退いて、騎士團にもこういったちょっとした仕事でやってくるだけなので、雪男に騎士團の内情を話す必要などないといったらそれまでなのだが。
 それにしても、四大騎士レベルの祓魔師がきたのなら教えてくれてもいいのに、と雪男は少し不貞腐れたような気分になって、口を尖らした。
ちょっと前までは、自分も竜騎士、医工騎士として前線に立っていた仲間なのに。
「ああ、奥村先生はまだお会いできていないんですね。確かに、現場にいらっしゃることが少ないから。いや、すごいですよ。四大騎士の称号は伊達じゃないなぁってかんじで。ここのところ、先生を呼び出す回数が減っているのも、彼のおかげといっていいんじゃないかな。ああ、そういえば、その四大騎士の方の名前も……」
「あ、すみません。携帯が」
 同僚の医工騎士が興奮して話し続けようとするのを雪男は手で遮った。内ポケットで携帯が震えている。
「はい、奥村。ああ、はい、そうですね……じゃあ、今から戻ります。ええ、わかりました」
 病院からの連絡だった。入院中の担当患者が急変したらしい。
 雪男は携帯を切って、同僚の方へぺこりと頭を下げて鞄を取り上げた。
「すみません。急患らしくて病院に戻らないと」
「ああ、そうなんですか。おつかれさまです。結局、なんの用事もなくて呼び出してしまってすみませんでした。また、次もよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ」
 雪男はもう一度頭をさげて、医務室を後にした。
 結局、無駄足になってしまったなと思いながら、車へと乗り込む。病院への道を戻りながら、雪男は先ほど同僚が話していたことを反芻した。
 そういえば、彼はあのあとなんと続けようとしていたのだろう。四大騎士の名前……?
 先月来たばかりの四大騎士。何か心にひっかかる。
 雪男はうーん、と首をひねったが、その答えが出る前に病院へ着いてしまった。
「まあ、いいか。四大騎士のことはまた神父さんにでもきこう」
 どこの誰だかわからない人物のことよりも、ずっと気になる人物が自分にはいる。
 今日の午後再会した奥村燐のことを思い出しながら雪男は車を降りた。
 次の予約日は二週間後だ。短いようで多分すごく長く感じるのだろうなと、数時間前会ったばかりなのに、すでにまた会いたくなっている自分に雪男はため息をつく。
(こんな形で出会ったのでなければ、別の方法で連絡がとれたんだろうけど……)
やはり、患者として出会ってしまうと医者としての倫理観が働いてしまい、個人的に連絡先を聞くことはためらわれる。
 予約日を二週間後と設定したのも、会いたいという気持ちと医者としての倫理観との葛藤の結果である。
 正直いって、こんな気持ちになるのは初めてのことだった。
 医者になるのは雪男の幼い頃からの夢で、その夢が実現した今、これまではどんなことよりも仕事を優先してきた。
 けれど、奥村燐に出会ってからは、それがいとも簡単に崩されつつある。
(ダメだ、ちゃんとしないと)
 戒めるように自分に言い聞かせると、雪男は燐への想いを振り切り、自分を待つ患者の元へと急いだ。


6




「二週間って長いなー、なあ、クロ」
 昼下がり、学生たちが午後の授業に入り人気のなくなった正十字学園の校庭の片隅でごろりと横になっていた燐は、同じく燐の隣で丸くなって寝ている猫又に話しかけた。
『なにがそんなにながいんだ?』
 クロは眠たそうに瞼を半目にして、にゃあと鳴く。
「会いたい人に会えねぇの。会えない時間が想いをはぐくむって言うけど、なんだそれってかんじ。会いたいのに会えねぇなんて拷問だと思わねぇ?」
『りんはだれとあいたいんだ?』
「ん?雪男先生」
『ゆきおって、あのゆきおか?』
「えっ?クロは雪男先生しってんの?」
『うん。むかしはしろうとよくあそびにきた。さいきんはあんまりみないけど』
「そっか。クロはジジィの使い魔だもんな。知ってて当然か」
『りんもゆきおのことしってるんだな。なんでだ?』
「んー、それはなー」
 燐はクロの方へと転がると、じっとクロを見る。クロは不思議そうに燐をみつめ返し、目をぱちくりとさせている。燐はにこりと笑うと、話をそらすようにクロの頭を撫ぜた。
「まあ、それはおいといてさ。いいなぁ、クロは雪男先生のもっと若い頃とか小さい頃とかしってんだろ。俺もみたかった」
『むかしはゆきおももっとちいさかったぞ。でもめがねはかけてた』
「そっかー」
 うらやましい、うらやましい、俺もみたかったと燐はごろごろする。クロは昔を思い出しなつかしそうに言った。
『でもりんのむかしのほうがもっとちいさかったな』
 そうクロが言うので、燐はそりゃ、当たり前だろと返す。
 クロは昔から時々獅郎がヴァチカン本部へと連れてきていたので、かなり前からのつきあいだ。
 燐の師匠であるシュラが獅郎の弟子にあたるので、燐は獅郎の孫弟子になる。それだけではなくて、燐がヴァチカン本部で育てられなければならなかった一件には獅郎も深く関わっている。
それに燐を一人前の祓魔師にするようシュラに頼んだのは獅郎だったと聞くから、燐が四大騎士になれたのも獅郎のおかげといって過言ではない。
 だが、それを感謝しているかというと話はまた別だ。ヴァチカンでの修行時代が燐にとってどれほど苦痛に満ちた日々だったかは言い尽くせない。文句を言ったところで帰らぬ日々だともわかっているから、何も言わないだけだ。でも、本当はメフィストも獅郎もわかっているのかもしれない。だから、今回、燐が日本に強引にやってきたことにも目をつぶっているのだろう。
「あーあ、二週間なんて待てねーよ」
 燐は背伸びをしながら、空を見上げて大声を張り上げた。
 今の燐のやりたいことは一つだ。奥村雪男に会うこと。会って話をすること。できれば笑っている姿をみること。それだけだ。
 四大騎士が日本支部にいるということで、メフィストは躍起になって任務をおしつけようとするが、そんなことにはまったく興味がない燐だった。
『そんなにあいたいならあいにいけばいいのに』
 クロが当たり前のことをなんでしないんだという顔で燐を見下ろしながら言う。
「クロ……」
 燐は視線をクロの方へと戻し、驚いたように返した。
「会いたけりゃ会いに行けばいいって?簡単にいうなぁ」
『あいたいのになんであっちゃいけないんだ?』
「それは……なんでだろ」
 燐はがばりと起き上がると、うーんと考え込んだ。クロが首をかしげながら燐を見守る。
 うんうんしばらく唸って、それから燐は伺うようにちらりとクロを見た。
「なぁ……いっても、いいと思う?」
『りんがいきたいならいけばいい』
 躊躇している燐に対して、クロはあっさりしたものだった。背中を後押しされたような気分になって、燐はうん、とうなずく。
「だよなー。我慢するなんて俺らしくねーよな!」
『りんはがまんなんてしないもんな!』
 はははっと笑いあって、燐はクロとじゃれあった。
 本当は、雪男と会うには躊躇があった。雪男と会うことをためらう理由が燐にはあった。
 けれど、会ってしまえば、そんな戸惑いもどこかへと消えてしまった。いや、消えてしまったわけではないが、会いたいという欲求がそれを上回った。
 早く、もう一度あの眼鏡の奥からのぞく優しげな瞳にみつめられたい。早く、あの暖かい手で触って欲しい。
「クロ、俺、雪男先生に会いにいくわ」
『うん!いってこい』
 クロが大きくにゃあと鳴く。
 燐は、そんなクロに行ってきます、と元気よく敬礼をして、クロと別れた。
 病院に向かって、足早に校内を歩く。
空は雲一つなく晴れ渡り、まるで燐の心を映しているかのように真っ青だった。





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プロフィール

HN:
如月 ちょこ
性別:
女性
自己紹介:
■ 青の祓魔師二次創作
 テキストサイト。腐向け。
■ 雪燐中心です。
   藤メフィもあります。
■ 書店委託開始しました。
   詳細はofflineで。

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