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【藤メフィ・雪燐】それはとても晴れた日で

数年後設定。メフィの墓参り。
藤メフィ・雪燐といってますけども、
藤メフィ←雪といったかんじです。

なんだ、これ。どこに分類したらいいの。
誰得なの?大して俺得でもないという。

藤メフィも雪燐もシリアス考えていくとどっぷりハマるので、
なるべく考えないようにしてたんですけど、考えてくとすごいですね。
しかし、そこが萌えるという……。どうしたらいい……。


それはとても晴れた日で、透き通った青空が美しい春の明け方だった。





 
 
 桜の花の蕾がようやく綻びだしたその日、雪男は朝日が昇る前の暗がりに起きだして、身支度をすると古巣である南十字男子修道院へと向かった。
 電車に揺られ、近くの駅で降りた後、歩いて目的地へ向かう。
 祓魔師として本格的に活動するようになってから、雪男はこの実家ともいえる場所にはほとんど戻ってきていない。戻ってくるのは年に一度。自分たちの養父の命日だけだ。
 いつもならば、日中兄と連れ立って墓参りをし、その後なじみの修道士たちと食事をする。けれど、今年はそれが叶わない。雪男は重要な任務のために朝一で現場へ向かわなければならないのだ。
 兄はまだベッドで寝ている。今年は一人だけでいつもの墓参りをやってもらうことになるだろう。そのことは数日前から伝えてあって、兄の了承も得ていた。
 だから、本当は墓参りをするつもりはなかったのだ。それを不義理となじるような養父でもなし、むしろ毎年の訪問すら必要ではないというだろう。では、なぜ雪男がこんな朝早くに養父の墓を訪れたのかというと、なんとなく、としか言いようがなかった。ただ、無性に行かなければと感じたのだ。それは義理堅い息子としての思いからだったのかもしれないし、あるいは、何かに呼ばれたからなのかもしれなかった。
 朝日が昇ってくると、夜間との温度差に霧が立ち込めだした。朝靄に日が反射して白くあたりを照らす。どこか幻想的な光景だ。
 修道院の裏手にある墓場は当然のことだが人気もなくひっそりとしていた。ぼんやりと白むそこに足を踏み入れようとして、雪男はふと足を止めた。
 一瞬、信じられないものを見たように目を見開き、確認するように目をこらす。そして、それが間違いでないとわかると息を呑んでその場に凍りついた。
 そこには、白く霞がかった夜明けの墓場に、まるでそこに紛れ込んでしまおうかという真っ白な衣装をまとった人物が、幽鬼かなにかのように立っていた。
 地平線から昇ってくる光が彼の白い服を照らし、そして、白い十字の墓石にも反射して、彼をやさしく包み込んだ。
 彼は黙ったまま、墓石を見下ろしていた。その口元はゆったりとした笑みが浮かんでいた。とても穏やかで、やわらかな微笑みだった。長年彼を知る雪男でも彼のそのような表情を見たことはなかった。いや、おそらく誰も知らないであろう。ある一人の人物を除いては。
 それは、まるで恋人同士が睦みあう時の、至福の一瞬であるかのようにもみえた。事実、彼はとても幸せそうで、笑っていた。
 ――なんて、残酷な。
 雪男は口元を覆った。嗚咽が漏れそうになるのを、必死でこらえた。声を抑えたのは、彼らの逢瀬を邪魔することはできない、それだけはできないと思ったからだった。
 ――こんな、ひどい。これほど残酷なことが、あっていいのか。
 幼い頃に、この悪魔と引き合わされた時、養父は彼のことを『友人』だと雪男に言った。悪魔に対して恐れと嫌悪しか持てなかった雪男はまったくそれが理解できなかった。
 長じてきて、彼と養父がただの『友人』関係だけではないと気づいてからはますます納得がいかなかった。悪魔と人が交わるなんて、そんなこと許されるべきことではない。
 それを理解しはじめたのは多分兄が悪魔として覚醒してからだろう。人としての兄を愛することと、悪魔としての兄を憎むこと、その二つの間で葛藤し苦しみ続ける中で救いを求めるように雪男は養父と彼が愛した悪魔のことを考えた。
 ――ああ、でも僕は。何もわかっていなかった。今日、これをみるまではまったく、何もわかっていなかったんだ。
 悪魔を愛すること、悪魔が人を愛すること。その先には何が待っているのかということ。
 悪魔と人はしょせん相容れないもの。悪魔と交わることの禁忌――太古の昔から定められた掟を破った、その罪の先にあるものは。
 ――永遠の孤独だ。
 禁忌を犯してつながりあったもの同士が、相手を失った後に、その代わりをたやすくみつけられるとは思えない。ならば。
 残されたものの、永久の孤独を誰が埋められるというのか。どうやってそれを埋めようというのか。
 この、白い墓の前でひっそりと佇む悪魔の姿は、愛する兄の未来の姿だ。
 自分は兄を残していけるのか。その覚悟はあるのか。兄の永遠に続いていく長い長いその孤独を、寂しさを、苦しみをどうやって。一層のこと、この手でその命を――。
「―――」
 その時一陣の風が吹いて、その風と共に流れてきた音に雪男ははっと顔を上げた。
 さえずるように、ささやくように小さな歌声が雪男の耳をくすぐった。いつか聞いたことのあるような、なつかしさを覚えるメロディ。歌詞は知らない異国の言葉だった。
 歌い聞かせるためではなく、どこか鼻歌まじりの、いつのまにか出てしまったというような。
 ――どうして、そんなに、やさしく歌えるんです。
 ――貴方にとって、残されたことは、その孤独は絶望ではないのですか。
 答えはない。たとえ面と向かって問いただしたところで、答えを与えてくれるような人物でもない。
 答えは自ら出すしかないのだ。自らと、そして自らの愛した悪魔と共に。
 雪男はその孤独な悪魔を眺めた。陽の光の中で幸せそうに佇む悪魔をみつめ、そして、踵を返した。
 これ以上、彼を見ていたら、その歌を聞いたら、泣きだしてしまいそうだった。
 雪男はもう二度と夜明けにこの場所を訪れることはないだろう。
 一人で来ることも、たぶん、もうない。来るときは傍らに自分の愛する悪魔を伴うのだろう。その心に喪失の恐れを覚えながら。
 ただ、雪男が願うのは来年もまた、この日が今日のように晴れればいいということだけだ。
 朝靄で白く霞んだ墓地に、彼の衣装が紛れ込むように。
 ひっそりと、彼がいつまでも佇むことができるように。









 いつのまにか自然に口をついて出たのは、あの男から教わった異国の子守歌だった。
「ああ、もう、こんな時間ですか」
 ふと我に返ったメフィストは辺りを見回した。来たときは薄暗かったはずが、今では地平線から出た太陽がその存在を主張し始めている。霧が出ていたようだが、それも徐々に晴れつつある。
「もうそろそろ帰らねば。これからまた楽しいお遊戯の時間だ」
 アイン・ツヴァイ……といって傘を振ろうとしたところで、ぴたりとメフィストは手を止める。そして、じっと墓石を見下ろす。
「……なんですか。わかってますよ、約束通り、貴方の子供たちは私が責任をもって、育てていますよ。まあ、私なりのやり方で、ですがね」
 口角を引いて笑ったら、墓石の下から文句が聞こえたような気がしてメフィストは肩をすくめた。
「なんですか。先に逝ったものに文句を言われる筋合いはありませんよ」
 さあ、本格的にいかなければ。
 名残惜しさはみせずに、メフィストは墓石に向かって優雅に礼をする。それもまた、メフィスト特有の一種道化じみた態度であった。
「では、藤本。また、来年のこの日まで。ああ、ちなみに雨が降ったら来ませんからね」
 そういったメフィストだったが、あの初めの年以来、年に一度のこの日に雨が降ることはなかった。なぜか、この日には雲一つない青空が広がる。
「春の晴れた日は好きなんです。帰りは歩いて帰るのですよ。道端の花がね、とてもいい匂いがするんです。優しい、匂いがする」
 ――貴方が笑った時のような。
「雨が降ったら、来ませんから」
 そうとだけ言って、墓に背を向けるとメフィストは歩き出した。
 



 雨なら、きっと泣いてしまう。だから、雨の日は来ない。
 貴方を思い出すことのできる、とてもとても晴れた日ならば。
 泣くことさえ忘れて、歩き続ける。生きていける。そんな気がするから。



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プロフィール

HN:
如月 ちょこ
性別:
女性
自己紹介:
■ 青の祓魔師二次創作
 テキストサイト。腐向け。
■ 雪燐中心です。
   藤メフィもあります。
■ 書店委託開始しました。
   詳細はofflineで。

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