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噛み砕き、押し潰す【雪燐・メフィ燐】

雪燐前提メフィ燐(愛の?)逃避行。

アニメ15話のメフィストかっこええってなって、思わず書いてしまったもの。
アニメではオリジナル展開で違ったんですが、原作で悪魔化燐の首根っこつかまえてるようなメフィストがすっごい好きです。

雪男はほとんど空気ですよ。よろしければどうぞ。
 燐の全身はその時、その姿を目にして、驚愕のあまり凍りついた。
 人影のない、ある街角でその人物は燐の前に現れた。偶然のように穏やかに、だがそれは必然としかいいようのないタイミングで。
 よく知る姿だった。生れ落ちたときから、呼吸をするのと同じように自然にそこにいて、温もりを分け合い、助け合って生きてきた存在だった。
 その人物が、今、燐の存在を否定するかのように立ちふさがっていた。
「うそ、だろ」
 全身が小さく震えだす。それを抑えるように両腕を掴んだらその腕も震えていて、隠すことができないほど大きく揺らいだ。
「嘘ではないですよ」
 その時、傾ぐ燐の身体を長身の身体が背後から包み込んだ。長い腕を燐の怯える腕に重ねて、熱を分ける。凍りつきそうだった身体がふっと緩む。心までがその男に引き寄せられそうになり、燐はぐっと唇を噛んだ。
「さあ、よく見なさい」
「っ、メフィスト」
「あれが今の貴方の敵だ」
「うそだ」
 十メートル先、駆け出せば一瞬で距離を縮められるその先に、無言で対峙する黒いコートの青年から燐は視線をはずそうと横を向く。だが、燐を守るように抱きこんだ男は甘えを許さないというように、燐の顎をきつく掴み正面を向かせた。
「嘘ではない。彼が騎士團から送り込まれてきた最後の刺客です。彼を倒せば我々を脅かすものはいなくなる。さあ、彼をその手で殺すのです」
「いやだ」
 耳元に吹きこまれる悪魔の囁きを、打ち払うように燐は首を振った。
敵?あいつが、俺の敵?そんなわけない。あいつは、あいつだけは最後の最後まで俺の味方のはずだ。命をかけても、その存在すべてをかけても俺を守ると誓ったあいつが俺の敵であるはずがない。
「ならば、彼自身に聞いてみますか?」
 長い爪の先で指し示されたその先に、ただ無表情で立ち尽くす弟を燐は凝視して、期待と恐れと懇願をこめた視線を送り、かろうじて吐き出すことの出来た擦れ声で聞いた。
「雪男、うそ、だよな?お前が、俺たちを殺しにくるわけないよな?」
 燐のわずかに甘えの含まれた声は、かつての馴れ合った日々を無意識に期待してのものだったが、それを許容する雰囲気はその場にはなく、燐を拒絶していた。
「雪男」
 意識せずに口がその名を呼ぶ、何千回、何万回と呼んできた名だった。この世にある言葉で最も多く燐が口にした響きだった。そして、彼もまた、同様に燐の名を呼んでいたのだった。それが自分たちであった。そういう存在であったのだ、互いに。
 だが、そんな燐の願いは、無慈悲に突きつけられた銃口によって答えられた。
「雪男!」
 うそだ、うそだ、と頭の中で繰り返す。切り裂くように叫んだ声が周囲に響き渡る。溢れ出した涙を拭うものはいない。だが、その代わりにさっと視界を覆い隠された。
「これでわかったでしょう。もう、貴方には私しかいないということが」
 最後通牒のように言い渡された言葉に燐が崩れ落ちる。その身体を抱えるのと同時に、アインス、ツヴァイ、ドライと楽しげにいつものカウントダウン。
 パチンと最後に鳴らされた音は、この悲劇の幕開けを示しているかのようだった。
 


 それは、正十字騎士團が本格的に悪魔狩りを開始して三ヶ月がたった、ある冬の夜更けの出来事であった。










 燐がメフィストと正十字学園町を離れ、世界中を旅するようになってから三ヶ月がたつ。二百年以上騎士團に貢献してきたメフィスト・フェレスでさえ悪魔狩りの対象とした上層部の意図など燐には知る由もなく、ただ攫われるようにしてメフィストとあの街から逃げ出し、このような日々を送っているのは、ただそれ以外に選択肢が残されていなかったからだ。
 だが、数日前に弟が刺客として現れてからは、燐にとってこの生活すら無意味なものに感じられて、今はただ惰性で呼吸をしているだけの状態になっている。
「ほら、いいかげん何か口にしなさい」
 目の前のテーブルに並べられたのは一流ホテルのブレックファーストだった。世界中を逃げ回るといっても、ヨハン・ファウスト5世という別名をもつ資産家のメフィストと共にいる限り日々の生活で困るということもない。多くはこうやってホテルを転々とする。
「人間とは違い、食事は我々にとってさして重要なものではありませんが・・・・・・しかし、人として長く生きてきた貴方にとっては食べないことはそれだけで気力の低下につながるでしょう」
 そういってメフィストは優雅にフォークとナイフを動かした。燐はぼんやりそれを眺める。綺麗に盛り付けられた生ハムのサラダがメフィストの口に入り、咀嚼され、噛み砕かれて嚥下される。噛み砕かれる、という言葉を頭に思い浮かべ、燐はその表現に何か悪魔じみた魅力を感じる、と密かに考えた。
「・・・・・・あまり、ひとの食事場面を凝視するものではありませんよ」
 行儀のいいものではありませんからね、といって立ちあがったメフィストは燐の隣の席に座るとスプーンをとってポタージュスープをすくった。
「さあ、口を開けて」
 そういわれて素直に口を開けるいわれはない。あえて反抗して固く閉じることもなく、人形のようにそのままでいたら、メフィストにスプーンを押し付けられた。ねじ入れられたスプーンが燐の口の中に入ってくる。それと一緒にスープも紛れ込んできたが、大半は溢れ出て、燐の口の周りを汚した。
「行儀の悪い」
 メフィストは不機嫌そうにいって、手袋をとった手で燐の口元を拭った。そしてその指を燐の口の中に忍ばせる。尖った爪が咥内を刺激し、あふれ出た唾液と一緒に指についたスープを飲み込んだ。
「もう、いい。自分で食べる」
「そうですか」
 諦めたように燐がそういうと、メフィストはナプキンで指先を拭い、自分の席へ戻って食事の続きを始めた。サラダの次は卵料理だった。ふわふわに調理されたスクランブルエッグ。今度は先ほどのように噛み砕いたりはせず、舌で押し潰すようにして飲み込んでいく。それを、燐はおざなりにスープを口に運びながら、やはりじっとみつめる。柔らかな舌で、柔らかな身をゆっくりと押し潰す。噛み砕かれるのとどちらが魅力的であろうかと考える。
「なあ、いつまでこんな生活続けるんだよ」
 スープを半分まで飲んだところで、飽きてしまった燐はスプーンを置いて、投げやりにメフィストへ尋ねた。
「さあ?いつまで続けましょうか。いつまでも、いつまでも・・・・・・。彼らが続けられるまでつきあうというのも手ですよ?彼らが滅びるまで。それは我々にとってみれば大した時間ではない」
 メフィストは新たな楽しみをみつけたというように喜色を浮かべる。そうだ、彼自身の居城とも言える正十字学園を捨てる時でさえ、メフィストは執着のひとつもしなかったのだ。彼にとってはすべてが劇中劇のようなものなのかもしれない。
「貴方はどうしたいんですか」
 聞かれ、燐は黙った。燐の一番の望みは昔から何一つ変わっていなかった。祓魔師になり、サタンを倒す。仲間に囲まれ、唯一の家族と共に穏やかな生活を過ごす。それはそんなに難しいことじゃないはずだ、と燐は思っていた。そう、たった三ヶ月前までは。
 だが、今では祓魔師の前に悪魔認定され、仲間からも弟からも追われ、燐をこのような運命に導いた元凶でもあるといえる悪魔と共に身を潜めて生活している。
 何がしたいのかもわからない。こんな状況から自分を救い出してくれるのではと唯一望みをかけていた弟は騎士團の最強の刺客となった。最後の望みも絶たれ、燐にできることといったら無気力になり、メフィストに手を掛けさせて苛立たせるか、自暴自棄になり、こんな自分を破滅させてくれないかと願うことぐらいだ。
「どうでもいいよ」
 やはり投げやりに言った燐にメフィストはため息をついて、口元を綺麗に拭うと立ちあがった。
「少し気分転換でもしますか。幸い、この場所をかぎつけた小物たちがホテルに結界を張ったようですよ。ちょっと暴れてみますか」
 メフィストの誘いかけに燐は顔を上げた。身体は気だるかったが、すでに右手はテーブルに立て掛けてあった倶利伽羅にかかっている。
「やる気がでたようですね」
 ふっと笑みを刷いて、メフィストは立ちあがった燐を懐に抱え込む。燐もその慣れきった動作に抵抗はしない。メフィストが三つ数えれば、そこには敵が待ち構えていることだろう。
「アインス・ツヴァイ・・・・・・」
 燐も心の中で、どこか沸き立つ気持ちを自覚しながら、メフィストと声を合わせて数を数えた。






「まだ、熱いですか」
 はあはあと荒い息を立てる燐をベッドに腰掛けさせてメフィストはそう尋ねた。
 燐は息を整えながら首を振る。そして倶利伽羅を投げ出すとそのままベッドに倒れこんだ。
 メフィストは小物といっていたが、上級祓魔師が何人もいた。当然だ。メフィストと燐がいるとわかって、小物で相手ができるとはさすがに騎士團も思っていないだろう。
 その中に弟の姿がないかと燐は必死で探したが、今回は外れていたようだ。ほっとしたような期待はずれのような複雑な思いを抱えたまま、燐は炎を全開にして闘った。メフィストが多少サポートしてくれていたようだが、記憶はない。意識を飛ばして闘うことで、燐はここしばらく溜まっていた鬱屈した思いを発散したのだ。そういう意味ではメフィストの言う通り気分転換にはなったのかもしれない。
「まだ、へんだ」
ベッド倒れこんでいた燐は覗き込んできたメフィストに回らない舌で答える。メフィストは喉を鳴らしながら笑って、燐に手を伸ばし乱れた髪を梳いた。
「そうでしょうね。貴方があそこまで炎をまとって闘うのは久しぶりにみました。非常に美しかったですよ」
 メフィストは目を輝かせて燐をみつめる。燐は青い瞳でそれを受け止めた。何かの美術品を観賞するような目でじろじろとみられるのももう慣れた。メフィストにとって燐は最高の武器であり、最高の芸術品だ。有名な刀匠が作った日本刀が美術品として重宝されるのと一緒だ。そして、メフィストにはその芸術品を作り出したのは自分であるという自負もあるのだろう。久しぶりに物質界で執着するものをみつけた、とメフィスト自身にいわれたことがある。
「本当に、実に、美しい」
 悦に入った声でメフィストは燐の頬を撫ぜる。闘いの後のまだ興奮さめやらぬ身体はわずかな刺激にでも敏感に反応する。びくりと肩を揺らすと、おやおやという表情をしてメフィストは唇を寄せてきた。
「んっ」
 唇を舌で舐められ、湿らされた後、しっとりとくちづけられる。悪魔の巧みなくちづけを受けるのは今日が初めてではない。人間と違って、倫理観などあってなきがごとしの悪魔にとっては気分次第で交わることは挨拶をするのと同じことだ。
「はっ、ん、ん」
 舌を差し込まれ、歯列をなぞり、溢れ出る唾液を交換して飲み下す。苦しいと感じるのはただ空気が足りないだけではなく、身体に満ちてくる欲望が出口を求めているからだ。
 燐の欲の高まりに気づいているメフィストは、日頃紳士であるといっているのが嘘でないことを示すように、穏やかに、自然に燐の身体を宥めながら、首筋から胸元、そして下半身へと手を這わせていく。
 そのまま身をゆだねてしまったら、きっと本当はずっと楽になれるのだろうと燐は知っていた。この悪魔に噛み砕かれ、押しつぶされるように扱われたら。それを望んでいる自分がいることもわかっている。けれど。
「――だめだ」
 燐はそっとメフィストの身体を押し返した。メフィストはぴたりと手を止めて、身を起こすと機嫌を損ねた風もなく、やはりおかしそうに笑った。
「なんですか。また弟への操立てですか?」
「・・・・・・そういうわけじゃ、ねぇよ」
 この身体が誰のものなのだ、とかそんなことは考えていない。
 ただ、快感に身をゆだねようとすると、あの日、騎士團による悪魔狩りが布告される前夜、突然襲うように燐の身体を暴き、泣きじゃくりながら実の兄を犯した弟の顔を思い出すのだ。
 ほら、今日も、と燐は自然と流れ出る涙をぼんやりと感じながら思った。
 あいつを忘れようと思って、炎に身をゆだね、優しい悪魔にすべてを預けようとしたのに、あいつの顔を思い出して、苦しくなって、そして泣いてしまう。
 本当は、なぜ弟があの日自分を犯しながら泣いていたのかを、もう一度抱かれながら聞いてみたいと思っていたが、そんな日はもう一生こないのだろうと燐は思っている。
「かわいそうに」
 メフィストはいとおしげに目を細め、燐の頭を撫ぜる。そこには悪魔らしくない慈愛がこめられていて、余計に燐の涙は止まらなくなる。
「―――メフィスト」
 いつかこの悲しみも薄れて、この目の前の悪魔に慰められるように抱かれる日が来るのだろうか。
 その日がきたらきっと自分は噛み砕き、押し潰すように抱いて欲しいとこの悪魔に懇願するのだろうと、燐は夢物語をみるように思うのだった。

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プロフィール

HN:
如月 ちょこ
性別:
女性
自己紹介:
■ 青の祓魔師二次創作
 テキストサイト。腐向け。
■ 雪燐中心です。
   藤メフィもあります。
■ 書店委託開始しました。
   詳細はofflineで。

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