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sophora

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【雪燐・メフィ燐】噛み砕き、押し潰す3

大分前に書いてたものの続き。
ようやく雪男が出てきますが、まだ全然雪燐関係ないですね。
今回はメフィ燐逃亡中、雪男がぐるぐると燐のことをひたすら考えるお話です。
最終的に雪燐になるのかメフィ燐になるのかまったく謎なんで、気のおもむくまま書いていこうかと思います。

よろしければ、続きからどうぞー。
 暗闇と静寂の中、硬い石造りの床の上に片膝を抱えて目を閉じていた雪男は、上の方から聞えてくる小さな物音にふと瞼を開けた。
 コツコツという音が建物全体に広がる。雪男は息を潜めてその音が近づいてくるのを待った。
ここは正十字騎士團ヴァチカン本部の最奥にある地下牢のひとつだった。かつては騎士團において最も重い罪を犯したもの――上層部への反乱、もしくは悪魔と通じた祓魔師――などが閉じ込められていたそうだが、今は老朽化が進んだためめったに使われていないのだという。
その場所に雪男が幽閉されてすでに三ヶ月の時間がたっていた。普通の人間だったら十分に狂うことのできる長さだ。そんな中雪男が正気を保ち続けたのは厳しい祓魔師としての鍛錬の積んできた賜物か、それとも兄を思う一念によるものか。
もしくは、すでに狂っているからなのかもしれないと、雪男は胸の内で自嘲した。粗末な食事だけ与えられ、いつまで閉じ込められ続けるかわからないこの状況で、自分が考えるのはひたすら兄のことだけだ。
「おい、食事だ」
 足音が鉄格子のまで来て止まる。うっそりと視線をそちらへ向け、それがいつもの食事を持ってくる祓魔師だと確認すると、雪男は興味なさげに再び片膝に額を押し付け、目を閉じた。
 すると、小さくため息が聞え、食事を乗せたトレイを棚に置く音が響いた。食事係の祓魔師が鉄格子に顔を近づけ、声を潜めて雪男に話し掛けてくる。
「奥村燐がまた姿を現したそうだぞ。今回はアラスカ支部」
 ぴくり、と雪男の肩が揺れる。それを認めて、祓魔師の男は話を続ける。
「あいかわらず、荒しまくっていったみたいだ。死者はいないが、重傷者は何人か出てる。支部の最深部まで入り込んできてな。探し物をしているようだ、とアラスカ支部の奴らが言っていた。その探し物って、お前のことだろう、奥村雪男」
 雪男は顔を上げて、男を睨みつけた。射殺すような強い視線を向けられ、男はわずかに怯えたような身震いをする。
「そんな顔でみるなよ。お前がここへ捕らえられているというのは上層部しか知らない。だから、奥村燐がどうして各地の支部を襲撃してるのかってことも何を探してるのかってことも、一般の祓魔師たちには謎だらけだ。ただ、奥村燐が現れたら生きたまま捕らえろって言われているだけだ」
 ふうと男は深い息を吐き出すと、再び鉄格子を握り締めた。
「上層部は奥村燐を餌にして一緒に逃亡中のフェレス卿を最終的には捕らえようとしているんだろうが、それにしちゃあ、上層部のこの案は被害が大きすぎる、と俺は思ってる。そもそもここまでして徹底した悪魔狩りをやる必要があったのかってな」
 そこまで一気に言って、男は額から流れる汗を拭った。男の発言は十分上層部への反逆の意思ありとみなされるものだ。人がいないとわかっているこんな地下奥深くだとしても気軽に言えるようなことではない。
「なあ、お前、ここから抜け出して奥村燐を止めてくれないか。お前がここに捕らえられているのは、奥村燐をおびきよせるためだろう。各地の支部にお前がいないとわかったら、最後に奥村燐が来るのはこの罠ばかりのヴァチカンだ。そうすればまた多くの被害が出る。お前が奥村燐のところへ戻ればそれも止まるだろ。お前がその気なら、ここの鍵を開けてやる」
 雪男は驚いたように目を見開き、そして疑うような目で男を見返した。
 男は必死の形相でこちらを見ている。そこには雪男をだまそうという意思はないように思われた。
 雪男は目を閉じて黙りこんだ。そして、このような最悪の状況に到った一年間を思い返した。





 そもそもの始まりは一年前だった。ヴァチカン本部が正式に悪魔狩りに乗り出すと公表した。それは今までのような問題が起こってから祓魔をするということではなく、根本的に世界から悪魔を駆逐しようという大々的な作戦だった。
 その対象にはそれほど有害ではないと認識されている悪魔も入っていた。悪魔の血を引いていながら騎士團に貢献している人々でさえ迫害された。危険視されている悪魔ならばなおのことだった。
 そんな恐ろしい作戦が開始される前日、雪男は突然ヴァチカン本部に呼び出された。
 その日の雪男はいつもどおり祓魔塾の授業を終え、兄の待つ旧男子寮へと帰ろうとしていたところだった。塾を出て、人気の少なくなった校内を歩く。すると、立ちはだかるように見知らぬ祓魔師数人に囲まれた。ヴァチカン本部からやってきたという彼らを前に、雪男は警戒心をあらわにした。ヴァチカン本部からの呼び出しにしても、通常は支部長であるメフィストを経由するのが通例だ。なのに、わざわざ隠れるように呼び出されたのはなぜだ。
 だが、その疑問をぶつける前に雪男は男達によってヴァチカン本部へと連行された。そして連れ出されたのはグリゴリの前。彼らが雪男に突きつけたのはあまりにも突然であまりにも残酷な命令だった。
 曰く、『魔神の仔、奥村燐を騎士團へと差し出せ』と。
 雪男は混乱しながらも、当然、反発した。何を言っているのだ、確かに燐は魔神の仔で今までも厳重に騎士團によって監視されていた。が、多少の問題はあれ、今までも騎士團に従ってきたし、これからもそのつもりである、と。
 だが、雪男の必死の訴えは聞き届けられなかった。そして、続けざまに告げられた命に騎士團が本気なのだとわかって、途方もない絶望感に襲われた。
『我々の目的にはメフィスト・フェレスの抹殺も含まれている。あれは奥村燐を所有物のひとつとみなし執着している。奥村燐を餌にすることで、メフィストを捕らえることができるだろう』
 騎士團がメフィストを敵とみなすのであれば、今までメフィストによって窮地を救われていた燐もその庇護からはずされるということだ。雪男はその時初めて、メフィストの庇護にどれほど頼っていたかに気づいた。
『お前が奥村燐の捕獲に協力し、メフィスト・フェレスの抹殺がなされたならば、奥村燐の命は考えてやらないこともない』
 命が助かったところで、一生幽閉されるか何かに違いないのだろうが、それでもその時の雪男にはそれが唯一の救いの道に思えた。
 雪男は燐の身柄をグリゴリに一時的にも引き渡す、その協力をすることを誓った。
『おそらく、簡単に奥村燐を手に入れることは難しいだろう。我々の計画をメフィストは薄々感じ取っているに違いない。すでに逃亡の準備をしているかもしれない。奥村燐とメフィスト・フェレスの捕獲は慎重に、長期戦で行う』
 最後にそういい残し去っていったグリゴリを雪男は抜け殻のように見送った。そうして、来た時と同じように祓魔師たちに連行された場所と同じところへと放り出され、吐き気のするような頭痛とおぼつかない足取りで兄の元へと帰った。





(あの時)
 雪男は静かにじっと雪男の返答をまつ食事係の男の視線を感じながら思った。
(あの時、なぜ、僕はグリゴリの言うことを間に受けて、兄さんを引き渡しに協力すると決めてしまったのか)
 男子寮に帰り、やはりいつも通りエプロン姿で片手にお玉を持ったまま雪男を迎えた燐を見た瞬間、雪男はずっと守り続けると誓った兄を、自らの手で騎士團に売り渡すと約束してきたのだという事実にようやく気づき、ショックを受けた。
 だが、あの時、雪男にはそれしか考えられなかった。燐を連れて騎士團から逃げ回り、守り続けるなどということが到底できることだとは思わなかった。雪男にできることは、せいぜい騎士團の命令に従順になり、燐を引き渡したあとその処遇ができるだけ穏便になるよう祈ることぐらいだった。
 だから、その時、燐のこの声も笑顔も匂いもぬくもりも、感じられるのはこれが最後なのだと思い、燐を抱き寄せ、乱暴にその服を剥ぎ、ひとつも余すことなくその身体を舐め付くし、泣きじゃくりながら犯した。
(僕は、愚かだ)
 袋小路においつめられたように、自暴自棄になって兄を汚すことしかできなかった。
(本当に必要なことは)
たとえこの身体が壊れようとも、兄さんを守り続けることだったのに。
(そして、今それを僕の代わりに実行している人物がいる)
 メフィスト・フェレス。あの悪魔は奥村燐を庇護しながら、自由気ままに世界中を逃亡していると聞く。
 雪男はきつく唇を噛んだ。メフィストが燐を騎士團から守ってくれて、本当は感謝をしなければいけないとわかっているのに、雪男は自分のできないことをいともあっさりとやりのけてしまっているメフィストが憎い。
(それだけじゃない)
 メフィストはこの逃亡劇の間に、燐の心までもその掌中に入れようとするだろう。追い詰められ、弱った燐がその手の中に落ちてくるのを時間をかけて楽しんでいるだろう。そうして、いつしか、燐は真の意味でメフィストの所有物となる。
(それだけは、許さない)
 兄さんは僕だけのものだ。僕が兄さんを守る。僕だけが兄さんを幸せにできる。
(誰にも、渡さない)
 もしも、もう燐がメフィストの物になっているのだとしても。奪い返す。奪い返してやる。
 雪男はきつく正面を見据えて立ち上がり、男を振り返った。
 そして、鉄格子を掴む男の手を上から握り締めて、決意を込めて言った。
「兄さんを止める。そして、騎士團の悪魔狩りも止めてみせる。誰にも、兄さんを傷つけさせやしない」
 その声はこの三ヶ月間幽鬼のようだった虜囚とは思えないほど力強く、食事係の男は驚いたように雪男をみたが、骨が折れるほど強く握られた己の手をみて、目を輝かせると深くうなずいた。

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プロフィール

HN:
如月 ちょこ
性別:
女性
自己紹介:
■ 青の祓魔師二次創作
 テキストサイト。腐向け。
■ 雪燐中心です。
   藤メフィもあります。
■ 書店委託開始しました。
   詳細はofflineで。

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